タコのチラ裏あるいはノート

有益なものが無い場所を目指していく、気軽にコメントしてください。できるだけ返信します。

スノー・ロワイヤル (序盤のネタバレあり)

原題 Cold Pursuit

制作国 アメリ

日本公開日 2019/6/7

監督 ハンス・ペテル・モランド

あらすじ

ネルソン・コックスマン(ネルズ)はロッキー山脈近くのリゾート地で除雪業を営んでおり、町から表彰されるほどの働きぶりを見せていた。ネルズは幸福な生活を送っていたが、息子が何者かに殺されたことをきっかけに、その生活は一変することとなった。ネルズは独自に捜査を行い、息子を殺したのが悪名高いギャングの親玉(バイキング)であることを知った。ネルズには戦闘経験はなかったが、趣味の狩猟で培った射撃スキルが備わっていた。ネルズは息子の敵を取るべく、バイキングたちを皆殺しにする決意を固めた。

バイキングは復讐の鬼と化したネルズの襲撃を他のギャングの攻撃と勘違いしてしまった。その結果、二つのギャングの間で闘争が発生することとなった。ところが、ネルズはそれを意に介そうとはしなかった。彼を止められるものはもうどこにも存在しなかったのである。(Wikipediaより)

……リーアム・ニーソンといえば何の作品を思い浮かべるだろうか? 個人的にはやはり「96時間」である。それから「バットマン・ビギンズ」。

近年は「96時間」シリーズの影響か「キレたらシャレにならないオヤジ」(イコライザー2のパンフでの『ナメてた相手が実は殺人マシンでした』特集にも載ってたし)な印象が強いリーアム・ニーソンだが、今作の彼もやはりキレたらシャレにならない。序盤から常にキレまくっている。

とはいえ、「96時間」では元CIAの特殊工作員という経歴の持ち主だったので、ギャングやら何やらをいきなりボッコボコにしていても(まあ……元特殊工作員だしな……)と不思議ではなかったが、今作ではそんな過去を持っていない、ネルズという真面目な除雪作業員である。毎日毎日除雪車で雪道の整備をしてきた寡黙な男だ。その真面目さを評価され、街の名誉市民賞も受賞した。

そんな彼がキレた理由は今作もやはり子供のためである。一人息子であるカイルは父親が授賞式の会場で気乗りしないスピーチをこなしている間、空港で働いていたが地元のギャングに突如拉致されてしまう。車内には友人もいたものの、その友人は一人で走行中の車から脱出して逃げ出してしまう。一人残されたカイルは薬物を打たれ、次の朝に椅子に座らされていたところを死体として発見されてしまう。

奥さんから知らされたネルズは一緒に死体を確認しに行くも、そこにいたのは紛れもない息子だったのだ。警察からは「ヘロインの過剰摂取」だと言われるが、それを信じることができない。ドラッグに手を出すような息子じゃない、と言うも、奥さんに責められたこともあり、自分で命を絶とうと決意してしまう。ガレージで銃を顎に添え……ようとしたタイミングで現れたのは車から逃げ出したカイルの友人にして同僚のダンテ! なんとヘロインを盗んだ人違いでギャングに殺されたというのだ。

ネルズ、キレた!

「殺してやる……殺してやるぞ……」とばかりにどん底にあったテンションはいきなり最高潮である。とりあえず目の前にいたダンテから無理やり情報を聞き出し、息子を殺した男らしい”スピード”がいるらしいクラブへといきなりカチコむ!

(コードネームというか源氏名というか……まあ死ぬんだけど……)

上手く二人っきりに持ち込んだタイミングで息子のことを聞くも、「知らないっすよww」とばかりにとぼけるので顔面に容赦なく鉄拳を叩き込むネルズ! 殴られた瞬間に言い訳をし始める”スピード”。また鉄拳を叩き込まれ、あっさり”リンボー”が指示を出したと白状してしまい、用も済んだのでここで退場することに……

(一般人のはずなのに殺すことに欠片も躊躇しない辺りヤバイ)

死体は金網で簀巻きにされ断崖絶壁の雪山から流れる渓谷の川にシューッ!雑な死体の片づけ方です。あと2回ぐらいこれを見ることに……。それと誰か死ぬたびに、暗転しながら出てくるテロップが地味に笑えてくる。十字架が良い味を出している……

f:id:Falx:20200207163447p:plain

この後もギャングを殺して回っていくネルズ! しかし組織が相手ということもあり、だんだんと埒が明かなくなっていく……兄のツテを頼り、殺し屋に依頼を出すも失敗。更にはこれまでの殺しを敵対するネイティブアメリカンのギャング組織によるものだと勘違いしたギャングが抗争を始めようと動き出し……とどんどんお互いに嚙み合わなくなっていくネルズとギャング一味!(と巻き込まれたネイティブアメリカン)混迷を深めていく田舎町でのバトルロワイアルの行方は……!

感想

……本作のジャンルははっきり言ってブラックコメディだと言っていいだろう。それぐらいちょくちょく笑いどころが挟まってくるのだ。そもそも、リーアム・ニーソンがキレる理由からして、人違いで殺された息子の復讐である。それが勘違いや早合点のせいで見当違いの人間を殺してしまうギャングに、勘違いのせいで巻き込まれたネイティブアメリカンのギャングが最後は殺し合いを始める、あれよあれよと酷いことになっていく展開はブラックコメディそのものだと思うからだ。復讐の連鎖とも言える話は、きちんと書けばかなりシリアスになる気もするが、本作の合間合間に挟まれる笑いに脱力してしまうから面白い。悪役であるギャング達のキャラも妙に”濃い”。

潔癖症とも言えるほどに息子の健康面に気を遣う毒親麻薬王、学校でイジメられているが父親の部下に忠誠心を説く麻薬王の息子、モーテルで全裸で寝転んでの清掃員のナンパに文字通り命を賭けたギャング、看板にくくりつけられた死体の発見というド田舎で起きた事件に狂喜する警官、「プライドないの!?」と言いそうになる殺し屋、何のために生まれたのかラストでようやく分かるギャングと多い多い。というかまだまだいたりする。

とはいえふざけた映画というわけでもなく、大事なところはキッチリしているのも魅力。監督曰く、「子供を助けに行く物語ではないこと。息子はすでに亡くなってしまっているから、もはや救い出すことはできない。この物語が描いていることは怒りと喪失だ」ともコメントしている通り、どこかやるせない空気が漂う。この三つ巴の戦いにおいて登場する三人の父親はそれぞれ、ある意味で息子を失った者同士の戦いでもあることが分かった時そう感じた。

最後はもはや爽やかにも感じる終わりを迎える本作、オススメです。